初授業
9月7日には初めての授業に出席しました。 “Professional and Ethical Issues in Psychological Couseling”という、カウンセラーとしての倫理を学ぶ授業です。
担当のFraga教授は開口一番に、
「みんな倫理なんて “Sacks!” って思っているでしょう?でも今学期が終わる頃にはこの授業が最も大切で、一番楽しい授業だったってきっと思えるわよ。」
と言いました。
私も確かに「倫理か〜、つまらなそう」と思っていました。そしてこの授業の指定教科書が180ドルもすることに不満を抱えていました。しかし早速教授からそんな気持ちを吹き飛ばす質問。
「もしあなたのクライアントさんが失業して、受診料を払えなくなったとき、あなたはどうする?」
これはきつい質問です。どうしましょう。クライアントさんは失業をしてしまって精神的に大ダメージを受けているはず。そもそもカウンセリングに来ているということは、失業する以前から何かしらのストレスや不安がありはずで、そこに追い打ちをかけるように失業という要素も加わり、本当に辛い状況にちがいありません。その人の顔をまっすぐにみて、「受診料が払えないのでしたら、次週からお会いすることはできません」と言うシーンを想像してみただけで、辛くなって胃がきゅっとしてしまいます。かといって、「失業中は受診料をお支払いいただかなくて構いません」と言っていいでしょうか。たとえば不景気で他のクライアントさんもみんな失業してしまったとき、公平にするために全員を無料で診療したら、カウンセラーの生活が立ち行かなくなります。
こうした状況にどう対処するかはカウンセラー次第なので、おそらく正解はないのでしょう。しかしこうした状況に自分が陥ったらどうするかということを、カウンセラーとしてやっていいこと、いけないことを頭に入れた上で、学生のうちからしっかりと考えることはとても大切です。
教授は、カウンセラーとして直面し得る困難な状況に真剣に向き合っていくために、授業で指定された読書課題は完璧にこなし、学生のうちにできる限りのことを全てしなければならい、と強調しました。
「ここは学部ではありません。卒業してから、どの仕事に就こうかな〜と模索する学部生とは違うのです。あなたたちはカウンセラーになることを決意して入ってきたのだから、そのために必要なことはすべて全力でしなければなりません。」
カウンセラーとして現在も活躍されている教授からは、学生たちに良いカウンセラーになってほしい、という熱意が溢れているように感じられ、この先生のもとで頑張ろうというやる気がかきたてられます。
そして教授からもう一つアドバイス。
「クラスの中で友達を作りなさい。」
カウンセラーは客観性を保つために、家族や友達、同僚などへのカウンセリングは行いません。たとえば歯医者であれば、家族や友達の診療を進んでするでしょうが、カウンセラーはこうした近しい間柄への診療ができないため、クライアントを獲得するのが難しいのです。そのため教授は、このクラスメイト間で将来クライアントを紹介し合うことが仕事を得る上で非常に重要だと言うのです。
学部時代、学問と私の日常生活は切り離されていたような感覚を持っていましたが、大学院では、特に私の専攻がカウンセリングという仕事直結型の分野だけに、常に実際に自分がその現場に直面したらどうするかという視点を忘れないようにしなければなりません。また友達付き合いも、大学生活を楽しむために大切にするのはもちろんのことですが、将来の同僚として支え合う意識も大切なのだと実感しました。
大学でいかに学んだかということが今後の生活に直接結びつくというのは、ちょっと背筋が伸びるような感じもしますが、私にとってはとても嬉しいことでもあります。学部時代に期末試験前に、教科書や論文を読んだり、レポートを書いたりしながらふとしたときに、こんなことして何の意味があるのだろう……と思うことがあり、その違和感を拭えないままとにかく課題をこなすのはとても辛かったからです。
一回目の授業を終えることには、教科書代180ドルも惜しくないように思えてきした。